ぷれぽ

【ぷれぽ】本番の様子をレポート! シリーズ「ポップス・オーケストラ in みやざき」~宮川彬良のびっくりアカデミー~

更新日:2019年05月26日

 5月18日(土)、大雨のなか開催となった、シリーズ「ポップス・オーケストラ in みやざき」~宮川彬良のびっくりアカデミー~。実はアキラさん、大の雨男とのこと。井上芳雄さんは「自分は晴れ男なのに…」と話していましたが、何を隠そう当館の館長も雨男という疑惑がありますので…。

 さて終演後、いつも大変ありがたい思いで一つ一つのアンケートを拝読するのですが、今回、いつもと少し異なる不思議な感動を覚えるコメントに出会いました。「今回初めて」「チラシを見て」「ご友人と一緒に」いらしたという「20歳未満」のお客様。自由記述欄には「まじ芳雄さん、かっこいい。ムリ。エモすぎて泣いた。」…シンプルだけど、「ムリ」というのは恐らく最上級の賛辞なのだと思います。

 

 宮川彬良さんの「アメリカ」―ウエストサイド物語より―から始まった本公演。バーンスタインのオリジナルから発展して、更にアメリカ国歌が混じったり、車のクラクションや警官?のホイッスルの音など、眼前にニューヨークの景色が広がるような音風景(ニューヨーク行ったことないですが。)演奏後のアキラさんの解説によると、そもそもバーンスタインの「アメリカ」自体に元々、アメリカ国歌のフレーズが隠れている!

 続いて、アキラさん作曲「風のオリヴァストロ」で登場した井上芳雄さん。アキラさんと二人での掛け合いは本当に軽妙洒脱で、会場は常に笑いに包まれていました。
 意外にも『ウエストサイド物語』の舞台に立ったことがないという井上さんですが、この作品への思い入れはアキラさんのそれに勝るとも劣らず、まずは「Something’s Coming」でトニーになりきります。続いて、こちらは劇団四季でマリア役を演じた木村花代さんとともに「Balcony Scene」―Tonight―、「One Hand, One Heart」をうっとりするような美声で歌いあげました。

 前半のラストは、アキラさん作曲『十二番目の天使』メインテーマ曲「白いボール 青い空へ」。お話と音楽の楽しい前半はあっという間に終わり、後半は、お話や歌は一切入らず、バーンスタイン作曲『ウエストサイド物語』より「シンフォニック・ダンス」。

 アキラさんが前半と違う衣裳で登場されてハタと気付いたのですが、オーケストラの皆さんも、いつも以上にカラフルで個性の溢れる素敵なお召し物でドレスアップ。これこそまさにアメリカの最良の部分、それを音だけでなく見た目でも感じられる! そんな気持ちがこみ上げました。バーンスタインやそこに連なる多くの偉大な芸術家たちが夢見たであろう、異質なものたちがそれぞれに主張し影響しあって至高の調和と歓びを喚起する、活力と魅力にあふれた自由な世界。

 曲は印象的な静寂によって幕を閉じ、感動の嵐が会場を包みましたが、最後に自ら出世作と語る「シンフォニック!マンボNo.5」をもってくるのが、実にアキラさん流。「ウエストサイド物語は大好きだけど、最後みんな死んじゃう物語で終わるのは自分らしくない」との言ですが、「No.5」という単語をキッカケにしてベートーヴェンの「運命」(交響曲No.5)と「マンボNo.5」という、かなり異質なものを見事に繋げてみせるという、駄洒落のようでありながら非常に音楽的なアイデアと技に満ちた、バーンスタインばりの天才・アキラさんならではの作品で、とっても楽しく後半が終わりました。

 アンコールは井上芳雄さんが再登場し、アキラさん作曲「戦士のルフラン」。オーケストラをバックにして生で歌われるのは今回が初とのこと。「人はどうして皆、戦うのか」という歌い出しから始まり、「人はどうして皆、忘れるのか/同じ過ちを繰り返してゆく」という歌詞も聞こえてきます。ロミオとジュリエットの昔から、ウエストサイド物語、そして現在に至ってもまだ、人は変わらず争い、最後に皆死んでしまうような過ちも繰り返すけれども、それでも異質なものが惹かれ合い、そこから美しい音楽や物語もまた紡ぎ続けられ、人は繰り返しそれに心を動かされています。

 「ムリ。エモすぎて泣いた。」という(私にとって)新鮮で少し異質な感情表現に、なにか新しい不思議な感動を覚えて嬉しかったのですが、このエモさを引き出すのは、ただ新しさだけでなく、連綿と続く伝統への敬意と理解に支えられた芸術家たちの営みだと思います。そこに伝統の深みがあればあるほど、革新的なものも見事に取り入れて、より多くの人々の様々な楽しみ方を包容できるし、宮崎国際音楽祭は、出演者、プログラム、その他多くの面で、異質のようにも思える「伝統」と「革新」が、世代やいろいろなものを超えてうまく協力し互いに高めあって、たくさんのお客様が思い思いに楽しむことのできる、そういう音楽祭であり続けてきたし、また今後もそうでありたいと(新参者の一職員として)思いを新たにする公演であり、音楽祭でした。(広報T)

 

Photo:K. Miura