ぷれぽ

【ぷれぽ】本番の様子をレポート!演奏会〔2〕エクスペリメンタル・コンサート「知られざる日本音楽の魅力」

更新日:2019年05月12日

 本日は「エクスペリメンタル・コンサート」。選りすぐりの現代音楽が毎回テーマに沿ってプログラムされています♪

 

 ところでそもそも、現代音楽ってなんだか難しそうだと思いませんか?かくいう私もそうだったんですが、実はなかなか面白い!

 

 この「エクスペリメンタル・コンサート」は10回ほど通っていますが、クラシック初心者の私にとっては曲、作曲家をたくさん知ることができる絶好の機会。驚きの奏法で楽器を演奏することも多いので、その楽器の新しい魅力を発見できる楽しい時間なんです♪今回のテーマは「知られざる日本音楽の魅力~明治から昭和をつなぐ作曲家たち~」。令和元年にぴったりのテーマのようですが、どんな曲が聴けるのかワクワクしますね。

 

 

 さて、今日は「語り役」として、あの女優・西田ひかるさんが音楽祭に初参加されるとのこと!これまた楽しみです♪ロビーでは「クラシックのコンサートなんて初めて来た」なんて声もちらほら聞こえています。もしかしたら、西田さんを見に来られたお客様かもしれません。

 

 会場内の照明が落ち、皆さんの視線は舞台下手へ。西田さんの登場を今か今かと待っていたら、現れたのは、巻髪に縞地の着物をすっきりと着こなした女性…と思ったら西田さん!前半は、明治~昭和期に活躍した女性作曲家、幸田延として曲にまつわる物語などを語るとのこと。ちなみに幸田、という名字でピンときた方もいらっしゃるかと思いますが、彼女は作家・幸田露伴の妹さん。日本で初めての音楽留学生となった人でもあるそうです。

 

 

 最初の曲は、その幸田延がウィーン留学時代に作曲した「ヴァイオリン・ソナタ 第1番 変ホ長調」。国際音楽祭音楽監督の徳永二男さんと、このエクスペリメンタル・コンサートの監修を長年務める、作曲家でピアニストの野平一郎さんによる豪華なデュオで演奏が始まります。日本人が初めて書いたソナタ形式の曲ということで、伝統の形式に則りながら、初々しくはつらつとしたメロディに、当時の幸田延の音楽への思いが溢れているような気がします。

 

 

 

 次に演奏されたのは、「荒城の月」「花」などの歌曲で知られる瀧廉太郎の「メヌエット ロ短調」と「憾(うらみ)」。幸田延の妹でバイオリニストの幸田幸(安藤幸)と同級生ということで、延と瀧廉太郎は兼ねてより親交があったそうです。野平さんの演奏で送る2曲の小品の美しい調べに、23歳という若さで亡くなった天才・瀧廉太郎の才能が惜しまれます。特に絶筆となった「憾(うらみ)」は、志半ばでこの世を去らねばならない無念と悲壮に彩られ、観客の皆さんも呼吸をするのも忘れて聴き入っている様子でした。

 

 

 前半最後は山田耕筰「弦楽四重奏曲 第2番 ト長調」。やはり「からたちの花」などの歌曲の印象が強い山田耕筰なので、交響曲や室内楽曲を作曲していたという話に、会場内からも「へー」「知らなかった」などの声が聞こえてきますね。演奏はヴァイオリンは漆原啓子さんと川田知子さん、ヴィオラに鈴木康浩さん、チェロが古川展生さんというカルテットですが、音楽祭常連でもある4人は息もぴったり。まだ明けきらぬ早朝の空に、白々とした光が差し込んでくるようです。

 

 

 休憩中のホワイエでは、「瀧廉太郎は惜しい才能だったね」「山田耕筰ってあんな素敵な曲も演奏してたのね」という感想があちらこちらで聞かれました。知っているようで知らない日本人作曲家の活躍。勉強になります!

 

 後半は昭和の作曲家たち。楽曲もすべて第二次大戦後に書かれた曲とのことです。西田さんが今度は淡いピンクにスパンコールが施された華やかな衣装で登場すると、デビュー当時と変わらぬ美しさ、可憐さにどよめきが上がりました!

 

 

 最初に紹介されたのは、かの平尾昌晃さんを輩出した平尾一族の一人、平尾貴四男の「ピアノ五重奏曲『春麗』」。先ほどのカルテットから、ヴィオラが重鎮の川﨑和憲さんに変わり、再びピアノに野平さんを迎えての演奏です。箏の調べを模したようなピアノの旋律から始まる曲は、宮城道雄の「春の海」のように雅やか。西洋の音楽の中に巧みに和の音色が施され、平尾さんの日本への愛を感じます。やはり46歳という若さで世を去った平尾さんの才能が偲ばれる一曲でした。

 

 

 次は黛敏郎さんのチェロ独奏曲「文楽」。ファンの多いチェリスト、古川さんの演奏です。人形浄瑠璃文楽ともいわれる日本の伝統芸能を、チェロ一本で表現するという驚きの曲ですが、三味線の撥(ばち)が生む音や義太夫の朗々とした語りが、さまざまな奏法を駆使して表現されていきます。許されぬ恋の道行き、裏切られた愛を清算する「ころし」場など、まさに浄瑠璃の情念の世界に引き込まれるような古川さんの演奏。迫力たっぷりでした!

 

 

 最後は前半にも登場したカルテットによる矢代秋雄「弦楽四重奏曲」。黛敏郎と同年代に活躍した作曲家ということですが、完璧主義のため、世に残した作品は少ないとか。ブラームスみたいですね!そんな彼が残した貴重な室内楽曲を名手たちの演奏で聴けるのは、この音楽祭ならではですね。

 フランスはパリの音楽学校を卒業し、自身のアイデアを世に問える解放感に満ちた曲で、うつうつと勉学に励む日々の苦しみと音楽を存分に学べる喜びの相反する二つの感情を行きつ戻りつしていたであろう、当時の矢代さんの心情が現れたような、少し重めの曲でした。古典にとらわれず作ったというこの曲への愛着が見られるリズミカルな旋律、故郷・日本への思いを忍ばせたような和楽器にも似た音色も。矢代さんもまた、46歳という若さで亡くなっているとのことで、長生きされていたら、素晴らしい作品をもっともっと残されていただろうと思うと残念ですね。

 

 

 

 

 帰り道にも、観客の皆さんは口々に「初めてクラシックを聴いたけど、おもしろかった」「普段知らない作曲家ばかりで勉強になった」など感想を言い合っていました。このエクスペリメンタル・コンサートは現代音楽特有の哲学的で難解な曲が紹介されることも多いのですが(私はこちらも大好きです)、今回のようにクラシックになじみのない方でもすっと心に入ってくる曲も増えてくると、多くの方が現代音楽を好きになってくれるのかも?!と感じました。(文:劇場レポーターのPyonさん)

 

 

Photo:K. Miura