●2002プログラム●
演奏会【1】ピアノ・コンチェルトの午後
音楽祭初登場、アシュケナージが奏でるピアノ。

 第7回音楽祭は、モーツァルトとベートーヴェンのピアノ協奏曲で幕が開きました。指揮とピアノで音楽祭初登場となるのは、人気実力ともに現代屈指の音楽家、ウラディミール・アシュケナージです。指揮者としての活躍も目覚しいものがあるアシュケナージですが、彼の長い音楽人生は、まずピアノに捧げられました。6歳のときからピアノを学び、モスクワ音楽院で基礎を固めた彼は、1955年、ショパン・コンクールで2位となり、続いてエリザベート王妃国際コンクールで優勝しました。そして、1962年にはチャイコフスキー・コンクールで優勝し、以来40年間、世界有数のピアニストの一人として活躍を続けています。このアシュケナージとともに、オープニングを飾る合奏団は、この音楽祭のために、‘これ以上望むべくもない’ソリスト級の演奏家が集まりました。
 プログラムのモーツァルト『ピアノ協奏曲 第12番』は、1782年の秋に書かれました。第1楽章は、協奏風ソナタ形式で、低音部の半音階進行が美しい表情を与えています。第2楽章の冒頭の旋律は、ヨハン・クリスチャン・バッハのシンフォニーの主題を用いています。第3楽章はロンド形式。軽やかな主題と副主題が交互に表れ、華やかな終結部につながっています。
 次にベートーヴェンの『ピアノ協奏曲 第1番』。第1楽章は、典型的な協奏風ソナタ形式。モーツアルト作曲様式の影響が見られ、後期のベートーヴェンの作品に比べれば、力強さよりも優美さのほうが特徴的です。そしてハ長調から変イ長調への変調が当時としては極めて斬新であった第2楽章。第3楽章はロンド形式。主題のリズムの扱いにベートーヴェンらしさが表れています。


ウラディミール・アシュケナージ
(指揮・ピアノ)


○ご存じですか?
アシュケナージは、1977年から87年にかけて、フィルハ−モニア管弦楽団とモーツァルトのピアノ協奏曲の全曲を録音しています。また、1981年から83年にかけて、ズービン・メータ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲の全曲を録音しています。




演奏会【2】アシュケナージ、華麗なる指揮とピアノ
アシュケナージの指揮とピアノを満喫する一日。

 音楽祭2日目の演奏会も、モーツァルトから始まりました。まずは、『歌劇“ドン・ジョバンニ”序曲』です。序曲は第2楽章第5場で石像の騎士が主人公のもとを訪れるシーンのテーマに基づき、重々しい二短調の和音による序奏で始まります。緊迫した序奏が終わると、ソナタ形式で展開します。
 2曲目は、R.シュトラウスの『メタモルフォーゼン』です。‘23の独奏楽器のための習作’との副題が付けられ、1945年に作曲されたこの曲は、第2次世界大戦により疲弊したドイツの人民や、爆撃によって破壊された各地の劇場などに対し心からの悲哀の情を表現し、葬送のイメージの変容を書き出した作品です。多声的なテクスチャーによる弦楽のみの合奏は精緻を極め、演奏者に極度の緊張を強いるものとなっています。
 3曲目は、モーツァルトのピアノ協奏曲のなかでも、とりわけやさしく優雅な雰囲気をもつ『ピアノ協奏曲 第17番』です。第1楽章は協奏風ソナタ形式。軽やかで滑らかな旋律線のなかに、時折り半音階変化により哀感が描き出されてます。第2楽章は、幻想曲風の緩除楽章。第3楽章には、モーツァルトが自宅で飼っていたムク鳥の鳴き声のなかに聴きとったといわれている旋律が用いられています。
 アシュケナージが指揮者としてタクトを振る曲とピアノを弾く曲の両方を同じ演奏会で満喫していただいた演奏会となりました。

○ご存じですか?
アシュケナージは、指揮者として、過去2回芸術劇場で演奏しています。最初は平成5年にベルリン・ドイツ交響楽団、2回目は平成13年にフィルハ−モニア管弦楽団とともに来館しています。




演奏会【3】モーツァルトの夕べ
豪華メンバーで奏でられるモーツァルト

 演奏会【3】は、モーツァルトに焦点を当てた演奏会です。『歌劇“フィガロの結婚”序曲』は、軽快なリズムに乗って、陽気で浮き立つような気分が表現されています。劇の脚本の筋を暗示するかのようで、ウイット富み、コンサートでも単独で取り上げられる機会が多い曲です。
 2曲目は『ヴァイオリン協奏曲 第4番』。第1楽章の第1主題が勇壮であることから《軍隊風》や《軍隊的》との愛称が付けられています。ヴァイオリンのソロパートが以前に比べて華やかです。第2楽章のアンダンテ・カンタービレでは、抒情的な旋律が心ゆくまで歌われています。ヴァイオリンのソリストを務めるのは、諏訪内晶子。第5回音楽祭で、バッハやヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲を演奏し、豊麗で情緒豊かな表現で鮮烈な印象を残した彼女ですが、今回は豪華メンバーを指揮するアシュケナージとの夢の共演となります。
 『交響曲 第41番』はモーツァルトが作曲した最後の交響曲であり、最も雄大かつ壮麗な作品です。《ジュピター》という愛称は、モーツァルト自身がつけたものではなく、ベートーヴェンの《月光》や《運命》等と同様に、後世の人が付けたものですが、この曲にローマ神話の最高神の名を冠したのは、曲の特徴を見事にとられたものであったと言えます。第1楽章は序奏なしに第1主題が始まり、陽気な第2主題と展開部の後に、華麗なコーダで結ばれ、第2楽章アンダンテ・カンタービレは、モーツァルト独特の優雅な旋律美にあふれています。第3楽章メヌエットは、通常の軽快さよりも幾分力強い表現が試みられ、終楽章はフーガの形式を用い、ポリフォニックな展開も完璧で、力強く終結します。
 演奏会【3】は、モーツァルトの生き生きと躍動するオペラ序曲、優美で華麗な協奏曲、雄大で壮麗な交響曲など名曲ばかりをピックアップしたモーツァルト好きの方にもたまらない一夜となりました。


諏訪内晶子
(ヴァイオリン)






演奏会【4】魅惑の室内楽
室内楽の醍醐味を堪能する一日。

 演奏会【4】は室内楽の魅力を存分に味わっていただける演奏会となっています。『弦楽のためのソナタ 第4番』は、ヴァイオリン2挺にチェロ、コントラバスという珍しい編成で、ロッシーニが少年時代に作曲しました。急・緩・急の3楽章から成り、流麗で起伏に富み、明るく親しみやすい旋律があふれています。時折り深い陰えいもみせるこの作品は、12歳の少年の作とは思えないほど完成度の高い作品です。
 シューベルトの『弦楽五重奏曲 作品163』は、シューベルト独特のロマン的な気分を表現しており、当時のシューベルトの精神的充実と相まって、彼の室内楽分野の集大成と評価されている佳曲です。特に美しい叙情的な旋律に心が癒される第2楽章が聴きどころです。また、上記2曲は、国内のトップアーティストのなかに、主にソリストとして活躍する諏訪内晶子が加わり室内楽を演奏する珍しい機会であり、注目したいところです。
 モーツァルトの『弦楽五重奏曲 K.515』は、当時のモーツァルトの境遇とは裏腹に、誇らかな精神を感じさせ、内容的にも密度が濃く深い精神性を表現し尽くしており、彼の室内楽作品中の最高傑作という評価さえある作品です。演奏は第5回音楽祭で、緻密でありながら絶妙な歌心があふれる演奏を披露し、絶賛を博したジュリアード弦楽四重奏団にニューヨークでの音楽仲間でもあるヴィオラの川崎雅夫が加わり、室内楽の醍醐味を十分に堪能していただける演奏会となりました。


川田知子
(ヴァイオリン)


川崎雅夫
(ヴィオラ)


豊嶋泰嗣
(ヴィオラ)


上村 昇
(チェロ)


菊地知也
(チェロ)


永島義男
(コントラバス)



ジュリアード弦楽四重奏団


徳永二男(ヴァイオリン)




演奏会【5】アイザック・スターン メモリアル・コンサート
アイザック・スターン氏へ捧げる音楽祭史上最大のコンサート

 音楽祭最終日の演奏会〔5〕は、2001年惜しくも死去されたアイザック・スターン氏を偲び、スターン氏へ捧げたコンサートです。まずは、シューベルトの『弦楽五重奏曲 作品163』です。演奏会〔4〕でも取り上げられるこの曲は、彼の室内楽分野の集大成と評価されている佳曲であり、この演奏会では、ジュリアード弦楽四重奏団に、チェロの原田禎夫が加わり、濃密で質の高い演奏が期待されます。演奏会〔4〕で諏訪内晶子らの日本のトップ・アーティストによる演奏と是非聴きくらべたいところです。2曲目は、ベートーヴェンの『エグモント「序曲」』です。演奏会で取りあげられることの多い名曲です。次に、J.S.バッハの『2つのヴァイオリンのための協奏曲』です。2つの独奏ヴァイオリンがポリフォニックにメロディーを紡ぎながら進行し、技巧的にも、華麗な装飾の名人芸を披露するように工夫されている曲です。4曲目はチャイコフスキーの『ロココの主題による変奏曲』。チェロ協奏曲を残していないチャイコフスキーの作品の中で、チェロ協奏曲に相当し、独奏チェロについては高い技巧が求められる曲です。ロココ調の粋で優美な主題を、チャイコフスキーらしい作曲技法で、時に伸びやかに、時に憂いを帯び、時に華麗に展開します。音楽祭のフィナーレを飾る曲はベートーヴェンの『ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲』。ピアノやヴァイオリンのパートに比べ、チェロのパートが大変難しい曲で、聴きどころは第1楽章。第1主題、第2主題、展開部とも3つの独奏楽器の華やかな技巧の展開の場があります。
 また、今回は桐朋学園が編成したオーケストラが特別参加し、スターン氏の長男で指揮者であるマイケル・スターン氏がタクトを握りました。
 初回の音楽祭から参加し、演奏家として、教育者としてこの音楽祭の発展に大きく寄与したアイザック・スターン氏への哀悼と感謝の意を込めて、このコンサートを開催いたしました。

※なお、演奏会【5】にエマニュエル・アックス(ピアノ)が都合により出演できないことになりました。どうぞ、ご了承ください。
○ご存じですか?
シューベルトの『弦楽五重奏曲』は、第1回音楽祭の最終日において演奏されました。(Vn=アイザック・スターン、藤原浜雄 Va=川崎雅夫 Vc=向山佳絵子、藤森亮一)


マイケル・スターン
(指揮)


ジャン・ワン
(チェロ)


ジュリアード
弦楽四重奏団


カリクシュタイン・
ラレード・ロビンソン
トリオ




●スペシャルプログラム●
カリクシュタイン・ラレード・ロビンソン トリオ演奏会
〜亡きマエストロ・スターンに捧ぐ〜

 サブ・タイトルのとおり、この演奏会は、アイザック・スターン氏の音楽仲間であったジョーゼフ・カリクシュタイン(ピアノ)、ハイメ・ラレード(ヴァイオリン)、シャロン・ロビンソン(チェロ)が、故アイザック・スターン氏への追悼の意を込めて、スターン氏に捧げた演奏会です。
 演奏曲目は、ハイドン、ショスタコーヴィチとブラームスの『ピアノ三重奏曲』です。1曲目はハイドンの『ピアノ三重奏曲 ホ短調』です。今日あまり演奏されることが少なくなっていますが、ピアノの旋律が大変美しい佳曲です。2曲目のショスタコーヴィチの『ピアノ三重奏曲 第2番』は、ショスタコーヴィチが親友の死を悼み、親友の思い出のために書いた作品です。第1楽章の出だしは、弱音機をつけたチェロが「挽歌」(死者を送る歌)を歌います。ブラームスの『ピアノ三重奏曲 第1番』(90ブタペスト版)は、ブラームスが後年に書き直したもので、ブラームス特有の旋律美が随所に見うけられる作品です。
 このコンサートは、故アイザック・スターン氏を偲び、スターン氏に捧げた演奏会です。


カリクシュタイン・
ラレード・ロビンソン
トリオ



徳永二男 ヴァイオリン・リサイタル 
‘日本が誇るヴィルトーゾ’の演奏を楽しむ
 長年NHK交響楽団の‘顔’として抜群の人気と知名度を誇り、音楽祭総合プロデューサーを務める徳永二男がリサイタルを開催しました。
 演奏曲目は、哀愁をおびた旋律が美しいヴィターリの『シャコンヌ』、現存するあらゆるヴァイオリンの曲中の舞い咲くの一つに位置づけられているフランクの『ヴァイオリン・ソナタ』、高度の演奏技法が各所にちりばめられた『華麗なるポロネーズ第1番』、‘ヴァイオリンの鬼神’との異名をとったパガニーニが作曲したヴァイオリン協奏曲第2番が原曲である『ラ・カンパネラ』、感傷的なメロディーを、ヴァイオリンがほの暗く甘美に歌い上げるチャイコフスキーの『瞑想曲』、ヴァイオリンのあらゆる表現技法が盛り込まれているサラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』です。
 ピアノは、進境著しく、将来がますます嘱望されている坂野伊都子。
 会場は2001年新しく開館した三股町立文化会館でした。哀愁を帯びたもの悲しい曲から、華やかで奔放な熱情を感じる曲まで多彩な選曲と、“日本が誇るヴィルトーゾ”徳永二男の高度な技巧、生命力に満ちた表現が楽しめる演奏会となりました。


徳永 二男(ヴァイオリン)


坂野 伊都子(ピアノ)




トップメンバーによるブラス・アンサンブルコンサート
〜日曜日の午後をブラスの響きのなかで過ごす〜
 音楽祭のスペシャルプログラムとしてすっかりお馴染みとなりましたトップメンバーによるブラス・アンサンブルコンサート。今回は、南国みやざきで野生馬の育成地としても名高い都井岬がある串間市の串間市民文化会館において開催いたしました。文字どおり国内の管楽器のトップクラス奏者による演奏ですので、迫力満点のステージがご覧いただけました。
 入場は無料で、ご家族やご友人と一緒に、ブラスの響きをゆっくりとお楽しみいただきました。


ブラスの演奏風景




●教育プログラム●
ウラディーミル・アシュケナージによるピアノ公開レッスン (入場無料)
 宮崎国際音楽祭では、アジアの次代を担う若手演奏家たちに宮崎から世界に向かって羽ばたいていただこうという願いを込めて、世界トップレベルの演奏家による指導を受けられる場を設けています。


宮崎国際室内楽音楽祭写真展
〜マエストロ・スターンとともに歩んだ6年〜
 (入場無料)
 第1回から第6回までの宮崎国際室内楽音楽祭の6千点以上の記録写真の中から、故アイザック・スターン氏を中心に特に厳選した約100点を展示するとともに、今回このために特別に借り受けたスターン氏の遺品も展示しました。


マエストロ・スターンから学んだ講習生の演奏会 (入場無料)
 第6回音楽祭までに、故アイザック・スターン氏から室内楽を学んだ講習生たちが、宮崎に帰ってきました。会場は、スターン氏からレッスンを受けたイベントホールです。また、写真展の会場では講習生たちのミニ・コンサートを開催いたします。アジアの講習生たちが、スターン先生からレッスンを受け、さらに大きく成長し、スケールアップした演奏をお聴きいただきました。


トリオ ラ・メール


北京ストリング・クヮルテット


ソウル大学弦楽四重奏団


子供のための音楽会
 一流の演奏家による音楽の限りない素晴らしさが子供たちに伝わり、豊かな心が育まれることを願い、県内の小学生を対象に、第1回から毎回開催しています。



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