連載@ プログラムに妥協なし!
今年第13回を迎える「宮崎国際音楽祭」。その聴きどころは何といっても名手の集まった音楽祭管弦楽団の演奏をはじめとする、妥協を許さないプログラミングです。
実は昨今のクラシック音楽を取り巻く情況は、危機的なものがあります。その背景となる事情はそれぞれ異なるものの、ヨーロッパでもアメリカでも、また日本でも情況は同じです。旧ソビエトや東ヨーロッパでは、ベルリンの壁崩壊が芸術音楽の世界に思わぬ結果をもたらしました。それまで国家が担ってきた芸術活動が支えを失い、一気に市場経済に放り込まれたからです。一方、旧西側の国では商業主義と結びつき難いクラシック音楽は、早くからちょう落傾向にありました。ひとつには鑑賞に一定の努力を要とするクラシック音楽に、若い世代が背を向けているからです。またひとつにはそれ故にコマーシャルベースに乗らず、接する機会が一層減少するという悪循環に陥っているのです。
この窮状を乗り切るために、さまざまな試みが行われました。親しみやすい名曲だけを選んだり、安価な演奏会で聴衆を呼ぼうとすることなどです。こうした努力には、一定の評価は下されるべきですが、問題の根本的な解決にはなりません。心の奥底からの共感味なしには、クラシック音楽は身近な存在にならないからです。
さて宮崎国際音楽祭は、アイザック・スターンを中心とした室内楽の音楽祭として始まりましたが、スターン没後、2004年の第9回からは、シャルル・デュトワと音楽祭管弦楽団の活動を中心とした大掛かりな形態に発展しています。しかしその根底には、常に本物の持つ力や気迫を提供する、という精神が貫かれています。ここに今日のクラシック音楽の情況を打開する、妥協を許さないプログラミングと、第一級の演奏の提供なしには事態の前進はないとの確信を感じることができます。

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淺岡壽雄(あさおかとしお) 〔音楽プロデューサー〕

 東京藝術大学大学院修了。NHK音楽伝統芸能番組で音楽番組制作。
 4年間NHK交響楽団演奏部長を務める。現在NHKエンタープライズ勤務。
 IMZ(国際音楽メディアセンター)理事。




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