ぷれぽ

【ぷれぽ】音楽は世代を超え、思い出とともに…。~チャイコフスキーの2曲

更新日:2019年05月10日

 昨日、メンバーが一堂に会して行われた 5月11日(土)Special Concert 2のリハーサル。チャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」は、第3楽章のめくるめく凄技の応酬など、聴いていてワクワクするところ満載の曲です。目と耳で楽しめる、これぞ生演奏の醍醐味!…なのですが、個人的にフィレンツェに一方ならぬ思い出のある私の個人的な感覚では、なんとなく「フィレンツェ」感はないような気が…。良い曲だけど、これ、フィレンツェ…かな…? 演奏会〔4〕で演奏される、同じチャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」の方は、ものすごく「偉大な芸術家の思い出」感があるのに、これはどういうこと??

 チャイコフスキーの最晩年に書かれた「フィレンツェの思い出」は、1890年のフィレンツェ滞在時に初稿を書き上げたそうですが、この年に、長年のパトロンだったメック夫人から一方的に支援の打ち切りが言い渡されました。1,000通以上もの手紙のやり取りをし、でも一度も会うことなく、ひたすら支援をしてくれていたメック夫人との蜜月関係が突然破綻。既に大作曲家でそんなにお金にも困っていなかったので、「お金はいいからこれまでの関係を続けたい」と訴えるも関係修復はならず、ひどく傷心のチャイコフスキー。いつかのフィレンツェ滞在では、(もちろんメック夫人の支援で)夫人と同じ時期に近くの宿に滞在し、けれどニアミスをしないようにするという、よくわからない楽しみ方をしていた二人。「フィレンツェの思い出」とは、実はメック夫人に支えられた十数年間の思い出のことなのでは…と個人的に感じてしまいます。でももう、それをハッキリとは言えない…なんて可哀そうなチャイコフスキー…(あくまで個人的な想像です)。


 可哀そうといえば、「偉大な芸術家の思い出に」を捧げた相手、ニコライ・ルビンシテインにしたって、名曲「ピアノ協奏曲第1番」を最初、ボロクソに批判して、チャイコフスキーはひどく傷ついたのでした。あんな名曲を書いたのに、可哀そうなチャイコフスキー…。しかし最終的にはニコライも曲の価値を認め、チャイコフスキーも「ピアノ協奏曲第2番」を献呈するほどの蜜月関係となって、亡くなったニコライへ「偉大な芸術家の思い出に」を捧げるほどに。


 こうしてみると、「思い出」がタイトルに入るチャイコフスキーのこの2つの曲は、とても対照的に思えてきます。仲違いから仲直りし、「偉大な芸術家」と相手を明言して思い出を綴ったピアノ三重奏曲と、逆に蜜月関係が破綻し、相手を明言することなく「フィレンツェ」に思い出を託した(と私が勝手に思っている)弦楽六重奏曲。


 音楽祭ではこの2曲を、それぞれ異なる一流の演奏家たちでハシゴすることができます! しかも前者はミッシャ・マイスキーが愛娘リリーを「偉大な芸術家」のパートであるピアノに据え、後者はズーカーマンが愛弟子の三浦文彰、愛妻アマンダ・フォーサイスといった大切な人たちと(前半には彼らとの協奏曲も楽しみつつ)ともに演奏するという、愛と思い出に満ちあふれた演奏会です。Special Concert 2の冒頭、「愛の挨拶」でも有名なエルガーが結婚記念日に愛妻に贈った「弦楽セレナード」は、そのエピソードも含めて素敵なオードブルのような味わいです。


 誰もが個人的な思い出をいくつも持っていると思います。これらの演奏会もまた、皆様にとってかえがえのない「思い出」となりますように。(広報T)

 

 

Special Concert 2 ズーカーマン「至高のアンサンブル」
【日時】5月11日(土)14:00開場 15:00開演
【会場】アイザックスターンホール
【出演】ヴァイオリン:ピンカス・ズーカーマン、三浦文彰
    ヴィオラ:川﨑雅夫、須田祥子
    チェロ:アマンダ・フォーサイス、上村昇
    宮崎国際音楽祭弦楽合奏団
【料金】SS席7,000円 S席6,000円 A席5,000円 B席3,000円 
C席2,000円 A席親子割5,500円

 

Photo:K. Miura